吹奏楽部に入って。（３）

関東大会が終わり、私達３年生は受験のために引退した。

でも希望者のみ、受験後３月の最後の演奏会に出ることができた。無事合格が決まってからは、勿論私も参加した。

定期演奏会の前から、顧問のＫ先生が他校へ異動となることが噂になっていた。

そして、それは現実だった。異動は変えられないと。

私達が部活動で貴重な経験をさせてもらえたのはＫ先生のおかげである。どうにかして、先生の異動をやめてもらいたかった。

そんな折、後輩達から「署名を集めよう」という声が挙がった。Ｋ先生にどうしても私達の中学校に留まってもらうために。

部員一丸となって署名運動を行った。部活の練習の後、友達、クラスの仲間とそのご家族など、いろんなところをまわって必死に署名を集めた。

何票集まったかは覚えていない。しかも署名を提出したところで決定は覆せないことはわかっていた。でも、私達がやったことを訴えることはできるということで、保護者会が代表で教育委員会に署名を提出しに行った。

やはり、私達の思いは叶わなかった。

私達とＫ先生にとって最後の定期演奏会で、最後に先生に内緒でお礼を言おうと言うことになった。

２年生の部長が、先生の名前を呼び、全員で「ありがとうございました」とお礼を言った。

部員も、卒業生も、保護者も、客席も泣いていた。

終わった後、卒業したフルートの先輩と抱き合いながら泣いた。

もうこのメンバーで、Ｋ先生の指揮で演奏することはない。

本当の意味の「卒業式」だった。

私は本当に良い経験をしたと思う。ひとつのことに打ち込める。こんな幸せな事はない。

良い思い出を一緒に作ってくれた皆さん、そしてＫ先生、本当にありがとうございました。